「アリス!!!!」
白兎と三月うさぎの声が遠くに聞こえて。
時間がすごくゆっくりと、流れて。
濁った青い瞳が私の目を捕らえる。

―――ぐらり。

ああ、まただ。この感覚…
トランプ兵の人に…同じようなことを…
「アリス…!!!」
声と一緒に、白が目の前に現れて。

視界が、真っ暗になった。

……す……
…りす…
あり…

「ん…」
「あ…アリス…!」
三月うさぎ…?
あれ…ここは…?
「よかったー…」
「三月うさぎ…あの…私…?」
「あ…うん…」
三月うさぎが、視線を落としながら言った。
「あの後…」
私が木の上のトランプ兵に襲われたあの時、白兎がそれをかばってくれたらしい。
そして、気を失った私をとりあえず自分の家に連れてきた、と。
…意識がなくなる前に最後に見えた白は…彼だったのか。
「白兎…は…?」
「…女王様のところだよ」
ぼそ、と三月うさぎが言う。
「きっと…女王様、白兎を…」
そこまで言って、口ごもった。
「まぁ、そんな気にすんなよ。
辛気くせぇなあ…」
「…そう、だよね
…ん?」
だ…誰の声?今の…
「ちす。」
口から覗く、八重歯の目立つ歯。
ピンクと紫の横シマTシャツに、黒い短パン。
…まさか。
「お探しなのは俺ですか?アリス。」
「…チェシャ猫!」
わはは、となぜか偉そうに笑うチェシャ猫。
「チェシャ猫!?どこから入ったの!?」
「玄関。」
チェシャ猫は玄関を顎でさし、にやっと笑う。
「ま、白兎が捕まったら、物語もなにもあったもんじゃねーからな。
そろそろいいかと思ってさ。」
そう言って、猫は私の腕を掴むと
「さ!行くぞ!」
ぐいっとひっぱる。
「きゃっ、ど、どこに!?」
「はぁ?なに寝ぼけてんだ!
白兎助けに行くに決まってんだろ!」
そう言って笑った。