寝ていた兎を私も少し叱った後、急いで帽子屋さんに猫の居る部屋へ案内してもらった。
廊下を歩いて、3つ目のドアの前で止まる。
「ここだよここだよ、アリス!」
にこっ!と笑って帽子屋さんが言う。
これでやっと、物語が成立する…そう思って開かれた扉をくぐり、中へ入る。

部屋にはナイフやら包丁やらが散乱していた。
「…」
「…」
絶句…。
引き裂かれた掛け布団、床に壁、天井に刺さった刃物。食器。

…居るって…生きてるよ…ね…?

唖然とする私たちに、帽子屋さんが慌てて言う。
「ごめんねごめんね…!散らかってて!猫さんが大人しくしなくて…大人しくしなくて…」
でも生きてるよ安心して、と付け足し、帽子屋さんは部屋をうろつきはじめた。

「居ない…居ない…」やっと立ち止まった帽子屋さんが言った。
私たちも部屋をさがしたけど、どこにもそれらしき人は居なかった。
どこに行っちゃったんだろう…帽子屋さんがうなだれていると
「あ…」
ゴミ箱を漁っていた兎が突然声を出す。
「メモです。これは猫の字では?」
ばっ、と帽子屋さんが顔を上げ、兎に近付く。
兎は少したじろぎながら、帽子屋さんにメモを渡す。
そのメモには
『アリスの匂いがしたから行く。帽子屋、その癖絶対直せ』
…と、書いてあった。
どんな嗅覚してるんだ…!
思っていると、急に帽子屋さんが笑い出した。

「あはははははは」
「あはははははは」
「あはははははは」

兎が私の後ろに隠れる。
帽子屋さんが…壊れた…