平静を装いながら

「…うん、切り分けるね。
紅茶も入れるから
ソファーで待ってて。」

そう言って

その腕から離れようとした。

すると、容器を戻した彼が

さっきよりも私を引き寄せた。

「……あの、センセイ?」

チラリと少しだけ

首を斜め後ろに向けて

彼を見上げると

さっきとは違い

ジロリと私を見た彼は

「…光華、違うだろ?
俺はもうお前の
『センセイ』じゃない。
お前は半年前に卒業したんだから
いい加減こっちの方も
名前で呼ぶ事に慣れてくれよ。」

と、呆れたように笑った。

私は視線を戻しながら

「…ごめんなさい。
京太朗(きょうたろう)さん。
つい、癖で…。
だって、『センセイ』て呼ぶのが
当たり前だったから…。
…何だか、名前で呼ぶの照れ臭い。」

そう言いながら

彼の左腕をさするように撫でると

ハチミツを見つめながら

「…俺と光華が
付き合う事になったあの日も
光華はハチミツ入りの手作り菓子を
持ってたな?」

と言って、彼は私の肩に顎を置いた。

微かにくすぐったいのを堪えながら

「…そうだね。
あの日はみかんハチミツ入りの
クッキーだったね。
センセ….じゃなくて
京太朗さんがいた準備室に
置いてあったのと偶然同じので…。
…….早いね。
あれから、2年近く経つのかな?」

と聞いた私に

「…ああ、そうだな。」

と、彼は呟いた。