この世界には、人知れず命をかけて戦う戦士たちがいる。

 そんな、誰も知らない戦士たちの中でも相当な手練れがいると噂されているのが、通称「ホワイト」という組織だ。

 何がなんだか分からないが、とりあえずこの組織の一員として活躍(暗躍?)しているのが、通称「アンジュ」と呼ばれる、ぱっと見まだ幼さの残る女だ。

 当然、本名、国籍、年齢、もしかしたら性別まで不明。

 組織「ホワイト」に所属する人間は皆そんなもんなんだから、仕方ない。

 何たって、一年に一回しか活動しないんだから、いちいち仲間の素性や名前を知ったところで意味がない。

 そして今年も、この時期がやってきた。


「久しぶりー!! やだノエル、ちょっと太ったんじゃないの!?」


 組織の隠れ家である秘密の場所のドアを開けるなり、アンジュはある人物を指差して言った。

 顔だけを見るとまだ30代前半といったところなのだが、悲しいのは、年を追うごとに頭髪の主張がだんだん薄くなっていくところだった。

 アンジュが言うように、最近はどういう訳か下腹までぽっこりしている。

 これでは、アンジュに「オッサン」と言われても仕方ない。

 だが一応ノエルと呼ばれるこの「オッサン」が、組織「ホワイト」のリーダーである。

 部屋には電気は点いてなく、あちこちにロウソクが灯されているだけ。

 薄暗いその中の一番奥のソファに座るノエルは、静かに笑みをたたえながら言った。


「一年ぶりだね、元気だったか、アンジュ?」


 まぁ、アンジュの最初のセリフは見事に無視されているのだが。


「元気じゃなかったら来ないわよ。こんな可愛らしいうら若き乙女が、クリスマスイブにさ」


 ソファにどっかりと腰を下ろし、アンジュは高々と足を組む。


「ま、うら若き乙女と言うなら、クリスマスイブに何の予定もないって…逆に悲しいわよね」

「やだ、クロシェット久しぶりー!!」


 トレイにシャンパングラスを乗せて部屋に入ってきた女に、アンジュは抱き付く勢いで立ち上がった。

 だが片手で制されて。


「グラスが倒れるでしょ。せっかくあなたの為にシャンパン、用意したんだから」

「やった♪ 雰囲気出るよねー」


 薄いピンク色をしたシャンパンのグラスをクロシェットから受け取り、アンジュはソファに座り直してそれを一口飲む。

 そして顔をしかめて。


「……ねぇこれ、アルコール入ってないよ?」

「そりゃあね、子供用のシャンメリーですもの。言ったでしょ、アンジュの為に用意したって」


 完全に、子供扱いだ。


「ケーキもありますよ」


 その後ろから、クリスマスケーキを差し出す男。

 毎年の事ながら、タキシードに身を包んでいるこの男は、プロレスラーか力士かと思わせる体格をしている。


「レンヌ! ケーキありがとう、今年も自分で作ったの?」

「はい♪ 趣味なので」

「レンヌの手作りケーキ、大好き!」

「ありがとうございます」


 その体格といかつい風貌からは想像出来ないくらい温和な物腰で、レンヌは言った。