「こんばんはーっ」
アタシは裏口の扉から、中に入る。厨房から、醤油の匂いがした。エプロンを身に付け、すぐさお皿の用意をする。
「お、伊央ちゃん来たかー」
主人のおっちゃんが、顔を出して笑う。
「注文入ってますかー?」
そう聞くと、おっちゃんはドンっと野菜炒めを置いた。持っていっていいというサイン。長年の付き合いだ。すぐに分かる。
「はい、おまちー」

この食堂で働き始めて、数年。中学校の頃からお世話になっている。
人のいいご夫婦が切り盛りする、人情溢れる食堂だ。アタシはここが大好き。