逆走チルドレン

次の日の放課後。
私は演劇部が練習しているという、演劇部に顔を出した。
『あめんぼあかいなあいうえお!』
お腹に手を当てて、声を出している。
凄い迫力。
「一年生だよね?見学?」
「ひゃっ」
後ろから声をかけられて、変な声を出してしまった。
振り返ると、先輩らしき人がくすくす笑っている。は、恥ずかしい。
「ごめんごめん。えと、私は部長の桜花。見学だよね?」
「は、はい。ヒロ先輩に来てって言われたので。」
「へー?ヒロがねー」
驚きを含んだ顔で桜花部長は、笑う。
「そうか、そうか。春が来たのかな?」
「? 今、春ですけど……?」
「ぶはっ!!何この子面白い!」
バンバンと私の背中を叩いてくる。なんというか、サバサバしてて思い切りのいい先輩だ。
「よしよし、なら、ヒロに指導させよう。オーイ、ヒロー!」
遠くの方で女の子に囲まれていたヒロ先輩に声をかける。
先輩が走ってきた。
「あ、エコ。来てくれたんだ。」
「こ、こんにちは。」
そのやりとりを桜花部長はニヤニヤして見ている。
「なんすか、部長。」
「ふふ、ヒロ、その子に演劇の楽しさを教えな。2人っきりで!」
「2人っきりは余計ですよ」
「はいはいーじゃあねー」
桜花部長はスキップをして去っていった。不思議な人だな……
「えと、じゃあ、移動しようか。」
「! は、はい!」

連れてこられたのは体育館裏。
誰もいないな……。
先輩が台本を私に渡す。え、何?
『シンデレラ』と表紙に書かれている。
「エコは俺の事、華やかとか言ってたよな?」
「はい。」
「華やかなだけじゃないんだよ、演劇っていうのは。上辺だけなんだ。裏では、体力作りしたり、台本を覚えたり、たくさん努力して、演劇が成り立つ。分かるか?」
「な、なんとなく。」
「うん。まずは知ることからだ。台本を読んでみよう。」
「えぇー!?」
「大丈夫!さあ、やろう!」
楽しそうに笑う。本当に演劇が好きなんだな、この人。
『私と踊っていただけませんか?』
先輩が私に手を差し伸べて言う。もう、先輩じゃない。シンデレラの王子様だ。
台本を開いて、慌てて続きを言う。
『……はい。』
『あなたのように美しい人は初めてだ。』
なんだか、うっとりしてしまう。演技なのに、嬉しい。私はシンデレラ。王子様と踊っている。本当にそんな気分だ。
『私と結婚してくれませんか、姫。』
手を取り、膝を立てて王子は言う。
『……わ、』
返事をしようとしたところで、十二時の鐘がなってしまう。
まだ、一緒に居たいのに。想いが溢れて、思わず涙がこぼれてしまう。
『ご、ごめんなさい!私、行かなくちゃ』
手を振り払い、走り出す。

「すごいな、エコ。」
「へ?」
演技は終わり。先輩が私を褒めてくれた。
「もしかして、演劇経験者?」
「そ、そんな訳ないですよ!」
「初めてなのにここまでとか……感動もんだ。エコは天才なのかな……。」
「ええっ!それはないです!先輩が凄くて、それに飲まれちゃったんですよ。」
「……。で、気分はどう?」
「え、」
実をいうと凄く気分がいい。胸はドキドキしっぱなしで、緊張したけど、なんだか、爽快なんだ。
「すっごく、楽しかったです。」
「そう思ってもらえて嬉しいな」
演技の最中、私はシンデレラだった。
そうか、演技だと違う私になれるんだ。ちゃんと、華やかだった。
「演劇部、入部したいです。」
本音はすっと出てきた。それを聞くと先輩は、私の頭を撫でてくれた。
「ようこそ。」


いつの間にか、空は茜色に染まっていた。

先輩は、「タオルのお礼。」と言って飴をくれた。

透明な色で、夕陽に照らすと、飴は茜色になる。

すっごく綺麗で。

この風景は、絶対に忘れないな。

と、思いながら飴を口に含む。

優しいサイダー味だった。