千早様の胸に顔を埋めていた私は、ゆっくりと上を向いた。
手を伸ばせば届く距離に、千早様の端整な顔がある。
私を見つめる、あなたがいる――。
「銀龍、俺も沙織を見たい」
伊吹様の声にドキリとした。
「わかりました。兄上の願いとあれば、喜んで」
朧様が千早様の時と同じように、伊吹様の目に力を送る。
「伊吹様…」
千早様の腕の中で振り返り、私は伊吹様を見つめた。
少しして朧様の手が退く。
そして、伊吹様の翡翠の瞳が真っ直ぐに私を射抜いた。
「沙織……」
「伊吹様…」
手を伸ばすことも、抱き合うこともしない。
けれど、激しく見つめ合う。
ただそれだけなのに伊吹様に抱かれているような、不思議な感覚に襲われる。
その時だった――。



