「お前がなんと言おうと、しばし留まるからな。酒と馳走を忘れるなよ?」
ちゃっかり食事の念を押しながらシトリ様は部屋の扉を開けた。
スタスタと入っていくその後ろ姿をボンヤリ眺めていると…。
「沙織!来いと言っただろう」
「あっ、はい!」
ボケッとするなと叱られた。
確かに、無防備な状態で澪様の傍にいたら危ないかも。
慌てて部屋の中へ。
私が入るのを確認してからシトリ様が扉を閉めた。
「ふむ。ここを出て久しいが、きちんと手入れが行き届いているな」
改めて室内を見回し、満足げに微笑するシトリ様。
シトリ様の部屋は和室で、床はもちろん畳。
無駄な家具は一切ないけれど、部屋に入って真正面の壁に掛けられている大きな掛け軸が妙に存在を主張していた。



