床に座っていた千早様が勢いよく立ち上がった。
「ち、違いますよ!なんでそうなるんですか!」
「伊吹が言いそうなことだ!」
千早様の言葉が怒りと一緒に吐き出される。
それを静かに聞いていた伊吹様は、落ち着き払った様子でしゃべり出した。
「ふっ、この程度で取り乱すとは滑稽だな」
「何…!?」
「俺と沙織が愛し合っていた記憶を返した。もうお前だけの沙織などとは言わせん」
「愛し合っていた記憶?どういうことだ!?」
言わなきゃ。
千早様に……伝えなきゃ。
「ごめんなさい。私は、千早様に相応しくないんです」
土下座して、深く深く頭を下げた。
「沙、織…?」
「私は昔、伊吹様に恋をしてました。思い出した今、私は千早様だけを愛せない…」
「な…何を、言って…」
動揺している千早様の声が聞こえる。
ごめんなさい千早様。
あなたを苦しめるとわかってて、私は残酷な言葉を告げます…。
「千早様だけを好きでいたかった…。けど、私は…伊吹様も好きなんです。千早様とは、一緒になれません…」



