「お前が望まないと思ったから殺意を押し殺したが…。長い年月、堪え難かった。村人どもの顔を見たくなくて、俺は塒山を去った」
あ、だから代わりに千早様が塒山神社にいたんだ。
「沙織」
「はい?」
伊吹様は改まって真剣な眼差しを私に向けた。
「今生を、俺と共に過ごせ」
命令口調なのに、懇願のように聞こえる切ない声。
「どこにも行くな。黄龍よりも、俺を選べ」
「………私、は」
千早様?伊吹様?
どちらが好きなの?
私は誰と今を生きたいの?
「………わた、し…は」
カラカラの声が出た。
迫る伊吹様の瞳に囚われそうな感覚に陥ったその時、バンッと音がして襖が勢いよく開かれた。
「沙織ぃ!!!!!」
「え…?ち、千早様!?」
「黄龍…」
突然現れたのは千早様。
息を乱しながら焦った表情で部屋の中に入ってくる。



