「い、ぶき…さま?」


落ちてきた水滴の正体を知った私は、大きく目を見開いた。


泣いている。

伊吹様が…泣いている…。


「沙織…」


泣き声もたてずに頬を伝う涙。



「好きだ」


彼の思いをのせて、私に降り注ぐ。



「お前が好きだ……沙織」



視線が反らせなかった。

翡翠の瞳があまりにも純粋に私を見つめるから…。


私まで、泣きたくなった。



「好きなんだ。俺は、お前のことが……こんなにも…」


「……でも…私は――」


続けようとしたら唇を指で塞がれた。


「俺はお前に愛されたい。だから……今から卑怯な手を使う」


卑怯な手?


「お前に、記憶を返そう。何百年も前の記憶だ」


記憶?どういうこと?


「思い出せばお前が苦しむことは明白。だが…もう一度、俺を好きになって欲しい…」


伊吹様の言ってる意味がわからない。

首を傾げる私の額に、伊吹様が優しいキスを落とす。


「あっ…」


その瞬間、頭の中にたくさんの映像が流れ込んできた。

いきなりの衝撃に視界がチカチカする。


「な…にっ…?」


私の意識はそのまま、記憶の渦に呑み込まれた。