え…?何の話?
私が伊吹様を好きって言った…?
一体いつ?
「桜っ…」
伊吹様が切なげに紡いだ言葉は私の名前じゃなかった。
「桜って…誰ですか?」
「……お前だ」
「私は沙織です。桜じゃない」
「だがっ……お前だ…」
私に覆いかぶさる伊吹様の瞳は、苦しそうにゆらゆらと揺れ動いていた。
綺麗な翡翠が鈍く光る。
泣いているのかと思った。
「私は…いつ伊吹様と出会ったんですか?教えて下さい」
思い返せば、私は伊吹様のことを何も知らないんだ。
危ない時はいつも来て助けてくれるけど、何も話さないでいなくなってしまうから。
「お前は……知る必要がない」
「ずるいですよ。ちゃんと話し――」
その時だった。



