「放したら……またお前がいなくなりそうだ」
「え…?」
またって、いつのことかな?
「沙織、黄龍が来ても帰るな」
伊吹様の細くて長い指が私の顎に触れた。
「ここにいろ。お前の居場所はここだ」
私の居場所。
そうだよね。雪の屋形こそ私のいるべきところなのかもしれない。
わかってる。
でも…。
「でも…私は……千早様と一緒にいたいです」
千早様の腕の中が一番安心できる。
早くギュッてされたい。
柔らかい声が聞きたい。
千早様に……会いたい。
「……千早千早と……そんなに黄龍が好きか」
唸るような声が聞こえた。
と思ったら、ダン!!と畳に押し倒された。
「あうっ!」
伊吹様にギリッと手首を掴まれる。
「何なのだお前は!!昔は呆れる程、俺のことを好きだ好きだと繰り返していたくせにっ!今度は黄龍を求めるのか!!」



