シトリ様は扇子を開いて口元にやった後、少し沈黙した。
「……血は争えん。このままでは千早も同じ道を辿りそうだ。私はそれを危惧している」
「千早様も…転生山へ…?」
「ああ、そうだ。貴様が寿命で死んだら人間に生まれ変わりたいなどと言い出すかも知れん。だが、あいつは現五龍の長であり、二人の人間に対する責任を負う身だ。軽はずみな行動をとることは許されるはずもない」
ピシッと扇子が閉じられた。
私の背筋に緊張が走る。
「良いか沙織。我ら龍神の寿命は悠久だ。ゆえに一人の人間に執着することは、かなりの覚悟を必要とする」
シトリ様の紫色の瞳が私を真正面から捉えた。
「幸福や愛情を知るのと引き換えに喪失と嘆きを覚えるだろう。失った時の痛みは、いつ終焉を迎えるかわからん我々にとって酷く厄介なものだ。それは毒のように体内に溜まり、徐々に心を蝕んでゆく」



