ここに若月様がいなくて良かった。
いたら今度こそ喧嘩になってたよ、多分。
「後で注意しておくよ。貴方が来た時は渋いのをってね」
「相手の好みを知らんと駆け引きにおいて失敗するぞ。よく学んでおけと伝えよ」
「はいはい」
「何だその返事は。“はい”は一度が好ましい」
「……いちいち細かいね。面倒な方だ」
「面倒だと?」
どうしよう……シトリ様も千早様も不機嫌だ。
「あ、あの…甘いもの好きですか?フィナンシェがあるんですけど、良かったらどうぞ」
私は紙袋から箱を出し、フィナンシェを取り出した。
甘いもの食べて、ちょっとは和んでくれないかな?
「フィナンシェ?何だそれは」
「人間のお菓子だよ。これならシトリ様の口にもあいそうだけど?」



