「父上の言う“恋”に憧れて、私は必ず人間を妻にしようと決めたんだよ」


人間の奥さん…。


「なら、朱美ちゃんを奥さんにしようとかは、考えなかったんですか?」


何気なく言ってみたけど、私の内心はかなりこのことを気にしてる。


「ああー…朱美ね。考えたことは…もちろんあったよ」


やっぱり…あったんだ。


「けど、どうも違うんだよね。朱美は家族みたいに大切だけれど、共にいてもドキドキしないし、興奮しない」


ドキドキはわかるけど、興奮…?


「このまま好き合う相手が見つからなかったら朱美でも…なんて考えた時期もあったけど、朱美で妥協した時点で、それは恋じゃないって気づいたんだ」


千早様は私を抱きしめる力を強くした。


「大丈夫だよ。沙織は朱美とは違う。共にいると無性に胸が高鳴るし、ずっと抱きしめて放したくない衝動にかられるんだよ」