「さすがは白龍。俊足にして華麗。だがしかし…!」
いつの間に傍まで来ていたのか、千早様の吐息が私の耳をくすぐった。
「沙織は渡さぬぞ」
私の身体が伊吹様の腕から離れた。
千早様にひょいと抱えられ、池から遠ざかる。
「平気か、沙織」
頭上から優しい声が降ってきた。
「はい。ありがとうございます」
「ならいいよ」
ニコリと微笑まれて私も自然と笑顔を返す。
千早様の微笑みは癒し系だね。
「沙織の龍化は進行している」
清んだ空気のような声がした。
伊吹様がこちらを睨むように見ている。
「今夜には心臓部に達するだろう」
心臓…。
聞いた瞬間、左腕全体にズキンと痛みが走った。



