針井は今から帰ると言うように、カバンを肩にかけていた。

「…いや、そんなたいした用事じゃないんだわ」

俺が答えると、
「でも、さっき早くしろとか待ちくたびれてるとか…」

針井は言いにくそうに返した。

「それに…」

つけくわえるように言った針井に、
「“それに”?」

俺は聞き返した。

それに…何だ?

「わたしと一緒にいるところを見られたら厄介なだけじゃない?」

そう言った針井の声は、とても冷たく感じられた。

「…はっ?」

意味がわからなくて、俺は聞き返した。