針井は俺に背中を見せた。

急に背中を見せた針井の方から、洟をすする音が聞こえた。

同時に、小さな肩が震えている。

「針井?」

名前を呼ぶと、後ろでコクコクと首を縦に振っているのが見えた。

「優しい人なんだね、霧ヶ峰くんって」

背中を見せたまま、針井が言った。

普段と少し声が変わっているように聞こえたのは、俺の気のせいかも知れない。

「わたし、嬉しかった。

そんなこと言われたこと、なかったから」

振り返って、針井は顔を見せてくれた。

笑顔だけど、目は潤んでいた。

「無理することなんて、ねーんだよ」

俺がそう言った瞬間、予鈴がなった。

5月がもうすぐ終わる。