マーサの姿を見送った後、先生は息を吐いた。

その様子から、先生は疲れているんだと思った。

「先生、大丈夫ですか?」

そう聞いた私に、
「ええ、大丈夫です」

先生は目を細めて返した。

やっぱり、先生は疲れているんだな。

目を細めたのは、疲れていることが私に気づかれたくないからなんだと思う。

私も目を細めて笑っているように見せて、周りに自分の気持ちを気づかせないようにする。

処世術や技と言うよりも、癖と言った方がいいかも知れない。

1人で生きて行くうえで身につけた、悪い癖。

「芹沢さん」

「はい」

先生は私の顔を覗き込むと、
「ちょっと、抜けませんか?」

唇を動かして、そう言った。