「おい、フーゴ!」

七緒が怒鳴って、ガタンと椅子から立ちあがった。

「あ…ナナ…」

「もういいよ!

フーゴ、さっきからずーっとぼんやりしてばっかだもん!

マーサに教えてもらう!」

「えっ…」

パタパタと、僕の声を無視して七緒は部屋を飛び出した。

恵の婚約者である、兼松真麻(カネマツマアサ)は22歳の女子大生。

卒業と同時に彼と結婚することになっている。

たぶん、彼女なら高校の数学くらい…って、無理かも知れない。

運動――特にソフトボールは得意かも知れないけど、勉強は…。

「ナナ、待て!」

僕はすでに行ってしまった七緒の後を追った。

彼女を頭の中から追い払って。