貴文くんも、忘れられないと正直に話してくれた。

忘れられないのは悪い事じゃない。

苦しいけど、辛いけど、向き合わなきゃいけないんだ。


ただ私と貴文くんで違うのは、痛みと向き合ってないこと。

私なんて、なんの努力もせず泣き寝入りしてるだけだ。


新しい恋に逃げる資格がない。



「あ、春田おはよ。昨日はちゃんと帰れたか?」


いきなり背中を叩かれ、いつもと変わらない彼の声がふいに耳元で響いた。


「ひゃ!?ま、槇野…。ば、馬鹿にしないでよね!帰れたし!」

動揺が隠せないが、槇野は私が電車を乗り過ごしたことに照れてると思ってニヤニヤしている。

理由はそれだけじゃないのに。

「俺んちあの終点の近くなんだよ。で、バイト行ってて…お前祭り行ってたの?浴衣だったし」

「あ、うん…」

「ふーん。可愛く決め込んじゃって、彼氏でも出来た?」

相変わらずのニヤニヤフェイスでとんでもないことを聞いてきた。

言葉に詰まる。

そんな軽々しく言われたら、槇野がやっぱり私には興味ないってはっきり分かっちゃうじゃん。