「なぁ.春田…」


掃除を適当にすませ、帰ろうとカバンを持ち上げたとき。


槙野は私の方をちゃんと向いて、小さい声で呼び止めてきた。


「なに?」



思ってたより冷たい声が出て、やばいと感じたけれど、言葉は無かったことにできない。

今までに何度彼に向かって暴言を吐いてきただろう。


全て無かったことにしたいけど、そんなことしたら私と槙野の間にはなんの会話も無くなってしまう気がする。



まともに、男の子と女の子として話した事なんてきっと一度もないだろう。



「今日はその…色々ごめんな。


蛾すら追い払えねえし…

彼氏できないとか、言い過ぎたしさ」



斜め下を向いて視線を合わせないけど、照れているのが良くわかった。



普通の女の子なら「そんなことないよ」とかなんとか言うんだろうけど…


私はなかなかその一言が出てこない。


素直になるのが嫌で。恥ずかしくて。すぐ調子にのる。




「…お前なぁ。まったく…なにが望みなんだよ。聞くだけ聞いてやるから」