「琥珀」



名前を呼ばれ振り返ると、そこには颯がいた。



「そろそろあっちに帰るか?」



“あっち”……。



現実世界のことだ。



「うん」



私は短い返事をすると、道場を出た。



颯も私に続いて道場から出ると、私の隣を歩く。



庭からは鈴虫の鳴き声が聞こえる。



「帰りも青が異空間を作るの?」



「いや、桜美夜行にやってもらおうと思ってる。見回り当番だから、送ることができないんだ。悪いな」



「え。サクもあの空間開けるの?」



「当たり前だ!」



私の足元でサクが心外そうに言った。



颯がいないってことはひとりで帰るってことか。



「大丈夫か?」



心配そうに眉を下げた颯。



「うん、平気」



私は颯に、笑ってみせた。



道着から普通の服に着替えると、庭に降りてサクに空間を開いてもらう。



サクは簡単に空間を開くことができた。