私はあなたの腕の中で

次の日。
学校に行っても、私の頭の中は「花びらの手紙」だけだった。
だって、世の中ではこうやって誘われてどっかに行くのって「デート」っていうんでしょ?
私にとって、初めてのデート。

「…れん、花蓮」
「はいっ!?」
「何考えてるの?」
この学校で私の事を呼び捨てするのは…。
「優亜さん、どうなさったの?」
この子は、大森優亜。超有名な書道家、大森華雲先生と超有名なファッションデザイナー、メアリー大森さんの一人娘。
とにかく個性的、そしてユーモアたっぷりなお嬢様。
正直なところ、クラスにも学年にも学校にも、この子がたった一人の友達。
だって、ほかの子たちはとにかくいい成績をもらおうと媚びてくる。
——そもそも、私に媚びたってどうにもならないんだけど、華が崎学院の都市伝説として有名らしいよ?
でもよく考えたら、私が卒業しちゃったらどうするんだろうね?
まぁそれはよしとして、優亜は私を一人の女の子として見てくれる。
そういう優亜が好き。
だから、わがまま言って仲良くしてもらってる。
おかげで、優亜はちょっとういちゃってるけど、でもその分2人でいられる時間がたくさんある。
「花蓮ったら、ほんっとに困っちゃう。もう10回以上呼んだのに!」
——すいませんでした、優亜さん。
そんなつもりじゃなかったんです。
「ずーっとボーっとしてたでしょ!!授業聞いてた?」
「えっ…」
もうそんな時間経ってたんだ。
気づかなかった。
「どうせ、花蓮の事だから聞いてなかったんだよね?」
「じゃあ、そういう優亜さんは?」
「へぇ?!聞いてないに決まってるでしょ!!」
——あの、自慢できることじゃないです。
よく見ると右手にノートを握りしめている優亜さん。
「…もしかして」
「う、うるさいっ!!次、理科だから一緒に行こうと思ってたのに、花蓮とはいかない!!」
「ごめんあそばせ、優亜さん!少々遊んでしまいました」
あたしたちは、廊下を笑いながら走って行った。

——楓 Side——
教室の前を大森と花蓮ちゃんが走って行った。
さっき隣のクラスのやつに聞いたら、この後は理科だって言ってた。
実は今さっきの休み時間、花蓮ちゃんに聞こうと思ってた。
「あの手紙、どうしたの?」って。
僕は気づいたんだ。
便せんの後ろに、万年筆で書いたならくっきり字の凸凹が出るはずなのにそれがなかった。
つまり、それは花蓮ちゃんの字をところどころ抜粋して印字したもの。
仮にも、花蓮ちゃんがわざわざ印刷したのなら、なぜそんなことをしたのか。
それが気になっていた。
だけど、話しかけようとしたところに大森が来た。
聞かれるとまずいかと思い、引き下がった。
「花蓮ちゃん…」
僕にできることは、彼女の後ろ姿に小さく声をかけることだけだった。