「お嬢様~…」
遠くで、執事の声がする
靴音が近づいてきて、あたしの部屋の前で止まった
―コンコン。
「お嬢様?いらっしゃるのでしょう?」
いるわよ。いるいる。逃げも隠れもしてないわ。
昨日、執事相手に駄々をこねた。
春休みの最終日、学校なんか行きたくないってね。
誰だってそう思ってるでしょ?
というわけで、4月第1週目月曜日の朝を迎えた、青野花蓮です。
私の家は、ま、執事がついてるくらいの家庭。
会社の名前は「青野財閥」。
財閥ってついてるくらいの会社だから、お金持ちなのかもしれない。
一人っ子の私は、「これでもか!」ってくらい大事にされてきた。
おかげで、いろいろわがままになってたんだけど。
結局、学校は休むわけにはいかず…
「休みたいっていったのに…」
半分泣き言の花蓮さんです。
今は登校中の車の中。
「いけませんよ、お嬢様。お嬢様は理事長のお孫様、3年生になられ高等部への進学もかかっているのでございますよ?」
そうですよ、ええ。そうなんです。執事の言うとおり。
私、れっきとした中3。
おじいちゃんが作った華が崎学院へ、もちろん入学した。
―半ば強制的に。
頑張らなきゃいけないけど、学校嫌いなんだよな…
「学校が嫌いなのは、十分承知しております。ですが、それでは通じぬ道理もございますから。」
「わかってるわよ。…今日は始業式だけで午前中で終わるから。」
「かしこまりました」
そういって、執事は車を正門へ止めた。
「あ、お嬢様」
「なあに?」
「今日はお帰りになりましたら、ご昼食の後、羽田空港までお出ましいただきたいのですが」
「どうしてよ?」
「いえ、私もはっきりどなたがお越しになるのか聞いておりませぬ」
変なの。いつも正確に情報を集めてきてくれる、執事が知らないなんて―。
はてなを抱えながら、私は車を降りた。
長いおじいちゃんの話。
正直言おう、うっとうしい。
そんな長々言ったって、何も変わりはしないわよ。
…ほら、あそこの子は寝てるし。
始業式はそんなこんなで終わった。
正門の前で、執事の車を待つ。
その時、となりにブレザーを着た人がやってきた。
「花蓮ちゃん?」
整った顔立ち、つぶらな瞳、そして長い手足―。
同じ学年の向山楓くん。
かなりのイケメンと言っていい彼とは、幼馴染。
「楓くんじゃない。どうしたの?」
「車、待ってるの?」
「そうよ、今日はこの後羽田空港へ行かないといけないの。」
「相変わらず、大変だね。…羽田空港って言えば、ほら思いだして?7歳の時。」
「ああ、秘密で屋敷を抜け出して2人で遊びに行ったんだっけね」
そんなことがあった。
正直毎日高い壁の内側で遊んでいた私たちは、外の世界にすごい興味があった。
もうパスポートもっていたし、お小遣いも2人で貯めて私たちは屋敷を抜け出した。
電車やバスを乗り継ぎながら、ついた先は羽田空港。
外国に行こうとしていたんだよね(今思えば、恐ろしいことだけど)。
その時、出会った人がいた。
―さわやかなお兄さん。
10歳くらいの男の子だったと思う。
でも、7歳の私にとってその子は「さわやかなお兄さん」っていうカンジだった。
どこの受付へ行けばよかったのかわからなくて、私は楓くんとはぐれた。
そこまでずっと楓くんの後をついてきていた私。
「どうしよう、楓くんとはぐれちゃったら帰れないよ…」
「どうしたの?」
そう優しく声かけてくれたのがお兄さん。
「え…?」
「こっちへおいで」
そういって手を引いて、お兄さんは出口へ向かったんだ。
出口には怒った顔した執事が来るまで来ていて
「お嬢様!!!」ってすごい剣幕で怒られちゃったんだけど。
そのお兄さんは言ったの。
「今は空港で説教してる場合じゃないと思うよ?」って。
最初は意味が分からなかったけど、やっと最近意味が分かってきた。
実はその日、私を誘拐しようとした犯人がいて、空港まで追ってきた奴は私を殺そうとした。
銃の乱射事件が起きたんだ。
それに気づいたお兄さんが、一生懸命逃がしてくれようとしたってこと。
そして「説教してる暇があるなら、早く逃げて」っていうメッセージだったってことに。
それから、そのお兄さんは銃に撃たれて重傷を負ったことも。
「あの時のお兄さん、元気かな…」
「気にすんなよ」
あの時楓くんは「自分がそそのかした」なんて、嘘ついてくれた。
7歳にしてそんなこと言えるなんて、楓くんは昔っから紳士的。
「…ありがと、楓くん」
「おう」
「お嬢様!」
執事がドアを開けて待っている。
「あ、じゃあ私行くね」
「いってらっしゃい」
「うん!」
―幼馴染っていいよな。
―楓 Side―
花蓮ちゃんじゃないのかな。
今日机の中に花びらの手紙が入ってた。
「今週の日曜日 お宅の庭園で待っていてください 青野」
いや、花蓮ちゃんしかいないよね?
…誰の手紙だよ?
遠くで、執事の声がする
靴音が近づいてきて、あたしの部屋の前で止まった
―コンコン。
「お嬢様?いらっしゃるのでしょう?」
いるわよ。いるいる。逃げも隠れもしてないわ。
昨日、執事相手に駄々をこねた。
春休みの最終日、学校なんか行きたくないってね。
誰だってそう思ってるでしょ?
というわけで、4月第1週目月曜日の朝を迎えた、青野花蓮です。
私の家は、ま、執事がついてるくらいの家庭。
会社の名前は「青野財閥」。
財閥ってついてるくらいの会社だから、お金持ちなのかもしれない。
一人っ子の私は、「これでもか!」ってくらい大事にされてきた。
おかげで、いろいろわがままになってたんだけど。
結局、学校は休むわけにはいかず…
「休みたいっていったのに…」
半分泣き言の花蓮さんです。
今は登校中の車の中。
「いけませんよ、お嬢様。お嬢様は理事長のお孫様、3年生になられ高等部への進学もかかっているのでございますよ?」
そうですよ、ええ。そうなんです。執事の言うとおり。
私、れっきとした中3。
おじいちゃんが作った華が崎学院へ、もちろん入学した。
―半ば強制的に。
頑張らなきゃいけないけど、学校嫌いなんだよな…
「学校が嫌いなのは、十分承知しております。ですが、それでは通じぬ道理もございますから。」
「わかってるわよ。…今日は始業式だけで午前中で終わるから。」
「かしこまりました」
そういって、執事は車を正門へ止めた。
「あ、お嬢様」
「なあに?」
「今日はお帰りになりましたら、ご昼食の後、羽田空港までお出ましいただきたいのですが」
「どうしてよ?」
「いえ、私もはっきりどなたがお越しになるのか聞いておりませぬ」
変なの。いつも正確に情報を集めてきてくれる、執事が知らないなんて―。
はてなを抱えながら、私は車を降りた。
長いおじいちゃんの話。
正直言おう、うっとうしい。
そんな長々言ったって、何も変わりはしないわよ。
…ほら、あそこの子は寝てるし。
始業式はそんなこんなで終わった。
正門の前で、執事の車を待つ。
その時、となりにブレザーを着た人がやってきた。
「花蓮ちゃん?」
整った顔立ち、つぶらな瞳、そして長い手足―。
同じ学年の向山楓くん。
かなりのイケメンと言っていい彼とは、幼馴染。
「楓くんじゃない。どうしたの?」
「車、待ってるの?」
「そうよ、今日はこの後羽田空港へ行かないといけないの。」
「相変わらず、大変だね。…羽田空港って言えば、ほら思いだして?7歳の時。」
「ああ、秘密で屋敷を抜け出して2人で遊びに行ったんだっけね」
そんなことがあった。
正直毎日高い壁の内側で遊んでいた私たちは、外の世界にすごい興味があった。
もうパスポートもっていたし、お小遣いも2人で貯めて私たちは屋敷を抜け出した。
電車やバスを乗り継ぎながら、ついた先は羽田空港。
外国に行こうとしていたんだよね(今思えば、恐ろしいことだけど)。
その時、出会った人がいた。
―さわやかなお兄さん。
10歳くらいの男の子だったと思う。
でも、7歳の私にとってその子は「さわやかなお兄さん」っていうカンジだった。
どこの受付へ行けばよかったのかわからなくて、私は楓くんとはぐれた。
そこまでずっと楓くんの後をついてきていた私。
「どうしよう、楓くんとはぐれちゃったら帰れないよ…」
「どうしたの?」
そう優しく声かけてくれたのがお兄さん。
「え…?」
「こっちへおいで」
そういって手を引いて、お兄さんは出口へ向かったんだ。
出口には怒った顔した執事が来るまで来ていて
「お嬢様!!!」ってすごい剣幕で怒られちゃったんだけど。
そのお兄さんは言ったの。
「今は空港で説教してる場合じゃないと思うよ?」って。
最初は意味が分からなかったけど、やっと最近意味が分かってきた。
実はその日、私を誘拐しようとした犯人がいて、空港まで追ってきた奴は私を殺そうとした。
銃の乱射事件が起きたんだ。
それに気づいたお兄さんが、一生懸命逃がしてくれようとしたってこと。
そして「説教してる暇があるなら、早く逃げて」っていうメッセージだったってことに。
それから、そのお兄さんは銃に撃たれて重傷を負ったことも。
「あの時のお兄さん、元気かな…」
「気にすんなよ」
あの時楓くんは「自分がそそのかした」なんて、嘘ついてくれた。
7歳にしてそんなこと言えるなんて、楓くんは昔っから紳士的。
「…ありがと、楓くん」
「おう」
「お嬢様!」
執事がドアを開けて待っている。
「あ、じゃあ私行くね」
「いってらっしゃい」
「うん!」
―幼馴染っていいよな。
―楓 Side―
花蓮ちゃんじゃないのかな。
今日机の中に花びらの手紙が入ってた。
「今週の日曜日 お宅の庭園で待っていてください 青野」
いや、花蓮ちゃんしかいないよね?
…誰の手紙だよ?
