高校生活に憧れ続けていた私も、ついに高校生になった。
桜が風に舞う季節。高まる気持ちを抑えられずに自然と表情が緩む。

桜が風に舞う季節。高まる気持ちを抑えられずに自然と表情が緩む。
ヘンに思われるかもしれないけど、仕方ないんです。

なんてったって、明日から高校生活が始まるんだから。
私立桜乃坂高校。創立5年目の新設校で名高い人気の名門校。そんな高校に明日から、可愛らしい制服をきて浮かれた気分で登校する自分を想像したら……嬉しくてたまらない!

ふと時計を見ると時刻は午後5時。
高校の制服がもうそろそろ届くはずだ。
ピンポン、とちょうどベルが鳴った。
慌てて玄関に向かい、扉をあけると予想通り。


やった…!こみ上げてくる気持ちをガマンできず、ガッツポーズをする。
包装された新品の制服を忙しく開けていく。


あれ?
目の前にあるのは、可愛らしい制服ではなく、真っ黒な、


学ランだった。



思考がストップする。混乱した頭は状況を理解してくれない。
なんで?どうして?発注のミス?
目を擦ってみてもどうしても、そこにあるのは一般的で何の変哲もない男子制服。
しかも、私の通う桜乃坂高校の男子制服でもない。じゃあどこの制服?サッパリ分からない。

ハッとなり、学ランを包んでいた包装を見る。
電話番号を見るなり、息もつかぬ速さで携帯を手にとり電話をかける。

「もしもし!?あの、先程の者ですが!」
勢いよく話すも、電話に出たのは配達に来てくれた中年の男の人で、落ち着いた対応だった。
『はい?いかがされました?』
私はありのままを話した。訳の分からない学ランが届いていたこと。
「頼んでないんですけど…嫌がらせですか」
『はぁ……おかしいですね。』
ほんとにおかしいよ!!泣き叫びたい心情を必死に隠しながら、耳をすませる。

『確か、あなたが頼んだのはその制服で間違いないはずですよ』
冷静に告げられる、ありえないこと。
「え…そんなはずないです!私、男じゃないですし…どこの高校かもわからない制服なんて、」
『はぁ、ですが、調べてみても間違いはありません。』
「なっ…」
そんな訳ない。だって、私は、ちゃんと桜乃坂高校の制服を……。

『あなたが頼んだのは、桜乃坂ではなく、“雷桐”高校の制服ですよ』
………へ?いま、なんて?
………私の、発注ミス。

通話を切って、テーブルの上においてあったプリントに目を通した。
たくさんの高校の名前がずらりと並んでて、その中に2つの高校名を見つけた。
“桜乃坂高校”と、“雷桐高校”。
それは仲良く縦に並んでて、微笑ましいことに。
丸をつけ間違えていた。
1つズレて、雷桐高校に丸をつけていたのだ。

それに、届いた学ラン。
雷桐高校かぁ。よく知らないけど、この短い時間でわかったことがある。

私って、果てしなく笑えるほどに馬鹿なんだってこと。
桜乃坂が、どんどん、じりじりと、もう帰ってこない位に遠ざかっていってること。
雷桐高校は、男子高校なんだ、ということ。