「甘いなぁ」
隣でこぼれた聞きなれない呟きに首をかしげた。
甘いものが好きな人だったっけ。
いつも無糖のコーヒーを飲んでいるイメージなんだけど。
「風間君、苺ミルク好きなの」
「ううん、初めて飲んだ」
「…どしたの」
「別に。……和泉さんは、
いつもこんな甘いの飲んでんだねぇ」
澄ました顔で、風間くんは好きでもない苺ミルクをごくりと飲んでは、甘いと言いながら眉をしかめる。
......。
…いや、別にさ。
なんてことないことだと言われたら、それまでなんだけど。
「……風間くん」
「ん?」
「今度は、無糖のコーヒー買ってきてね」
私の言葉に、風間くんは一瞬きょとんとした顔をして、その後ふわりと笑った。
それはあまりにも自然な笑顔で。
見慣れない表情にキュンとする間もなく、風間くんは無表情に戻って
「…なんで俺が負ける前提なの」
と呟いた。
「だって風間くん、ジャンケン弱いから」
「俺が勝つ可能性もあるからね」
「その勝率は天文学的数値だね」
「くっそ、今に見てろよ。くっそ」
世間で言うカップルには程遠い。
でも、風間くんとのこの距離感、私は結構気に入っている。
「…私は、ね」
「何の話?」
「何でもないよ」
***
「1.コーヒーと苺ミルク」end.