私は、風間くんの手をすくい取って、その手のひらを自分の左胸に押し当てた。



一瞬、風間くんの手がビクリとして、そのあと私にも分かるくらい、身体が強張った。



「...えっ、ちょ、和泉さん?」


「分かる?」



そのまま、ちょっと視線を落として、でもハッキリとした声で続ける。



「心臓、すごいドキドキしてるでしょ?」


「ん......」


「なんとも思ってない人に、
こんなにドキドキすると思う?」


「......」



「風間くんだから、こんなになるんだよ」


「......」


「......」



返事がない。


不思議に思って、ゆっくり顔を上げると、彼はまさにゆでダコのように耳まで真っ赤になっていた。



それにつられて、自分のしてることと、今言ったことがものすごく恥ずかしく感じて、じわりじわりと頬が熱くなる。



「えっと...その、だから」


「いずみ、さん、て...」


「え?」


「はなし、」



最後まで言う前に、風間くんはそれはそれは盛大に鼻血を噴き出し、私が驚いて手を離してしまったせいで、背中からバタリと倒れた。



「か、風間くーん!!」



名を呼びながら両肩を掴んで揺さぶっていると、側の体育館から「うるせぇぞコラァー!!」という怒鳴り声とともに体育教師が飛び出してきて、私は泣きながらすがりついたのだった。




***





「こんな感じで、付き合い始めたんだよね」



どうやって告白されたの、と興味ありげに聞かれたので正直に答えたら、いっちゃんは物凄い呆れ顔でカフェオレをズズッと啜った。



「ないわ」


「ちょ、そんなズバッと切り捨てないで」


「なにそれ。
鮮血にまみれた恋のプロローグ的な?
ハッ、ないわ。マジないわありえない」


「だから、風間くんとも話したんだよね。
一生忘れないねって」


「そりゃそうだわ。
忘れようにも忘れらんないわ」



いっちゃんは吐き捨てるように言ってから、なにか思いついたような顔をする。



「だからあのとき、ジャージで帰ったんだ」


「あー、そうそう。
風間くんがクリーニング出してくれて。

風間くんと付き合えたし、
制服ピカピカだし。
一石二鳥だよねぇ」



「......」


「やめて。
その可哀想な子を見る目やめて」



「あんたらって、ある意味お似合いだわ」


「ほんと?ありがとー」


「褒めてねぇよ」





***


「4.鮮血に染まる思い出 ー和泉ー」end.