そんな暇つぶしの相手をする時間があるのなら、フラワーアレンジメントの勉強に励んでいたい。
父に頼まれた私は、何度もその話を断った。
だが、父もまた友人への面子があるのだろう。
あれやこれやと理由をつけては、なかなか引き下がらない。
仕方なく、私はその頼みごとを引き受けることにした。
「数回教えれば、今の若い人ならすぐに飽きるだろう」
そんな風に考えていた私は、その後、何度も後悔することになる。
「あの時、何が何でも断っておくべきだった」と。

「初めまして」
政治家、源 桐生の息子、源 光。
繊細で整った顔立ちに、スマートな体型。
多分、背丈は180センチを越えているだろう。
きちんとした服装をして私に頭を下げる姿は、18歳の子供には見えなかった。
きっと何人もの女性を虜にしてきているに違いない。
大人びた彼を前にして、私は妙な緊張感を抱いた。
だが、顔を上げてすぐに微笑む表情には、まだ少年のあどけなさが残っている。
彼を見上げる私は、挨拶を返しながら「やっぱり子供だな」と心の中でホッとした。
これが、彼との出逢いだ。
この時の私は、彼に対して何の感情も持っていなかった。
自分を見失うほど、惹かれてはいなかったはず。