黒百合(書籍「恋みち」収録作品)

電話の子機をテーブルの上に置いた私は肘をつき、頭を抱えた。
「……消えてしまいたい」
彼の前では冷静でいよう、と思っていた。
夢中になっているところなんか見せたくなかったの。
寂しくても「会いたい」だなんて、一切、口にしなかった。
何度か、感情的になってしまったことがある。
その度に、私は自分を責めて、彼に嫌われていないか不安になっていた。
もしかすると、彼はあの姿を目にしたのかもしれない。
実際、彼の彼女は首に痣を持ったまま、他界した。
あれが夢ではなかったのなら、私は彼らの前に現れていたことになる。
そんな奇妙なことが、この世に存在するのだろうか。
信じがたいが、周りに咲いている花を見れば、ないとは言い切れない。
きっと、光は醜い私を知っていた。
なのに、彼はそのことを問いただしてはこなかった。
「百合のような人ですね」
以前、彼が言った台詞を思い出し、私は笑いながら泣いた。
どうして、私はこんな風になってしまったのだろう。
彼が好きで、ただ愛されたくて、ずっと側にいたいと願っただけなのに。