その日の夜、突然、光から電話がかかってきた。
「……会いに行こうとは思っていたのですが、ずっと忙しくて」
部屋から一歩も出ていなかった私は、彼の話に返事をすることもなく、静かに受話器を耳に当てていた。
私の余所余所しい態度につられて、彼も出会ったときと同じ口調に戻している。
「今日はお通夜だったのでしょう?」
嫌味として言ったつもりだ。
言葉を失った彼は、気まずそうに「はい」と答える。
重い沈黙が続いた。
このまま素っ気なく電話を切ってやろうか、と思った。
だが、彼は言いづらそうにしながらも「あの」と呟いて、沈黙を破っていく。
「麗子さん、黒い花に……身に覚えありませんか? 少し前から僕の元に……」
彼の口から「黒い花」と出たことに驚いた私は、思わず「え?」と声を出してしまった。
「……いや、すみません。……何でもないです」
彼は話を途中で切り上げて、電話を終わらせようとする。
終話ボタンに親指を乗せたまま、私はごくりとつばを飲む。
少し前から僕の元に、と彼は言った。
もしかすると、この花びらは彼の側にもあるのかもしれない。
そして、それを私に聞いてきたということは……。
彼は、あの恐ろしい姿を見たのかもしれない。
「……会いに行こうとは思っていたのですが、ずっと忙しくて」
部屋から一歩も出ていなかった私は、彼の話に返事をすることもなく、静かに受話器を耳に当てていた。
私の余所余所しい態度につられて、彼も出会ったときと同じ口調に戻している。
「今日はお通夜だったのでしょう?」
嫌味として言ったつもりだ。
言葉を失った彼は、気まずそうに「はい」と答える。
重い沈黙が続いた。
このまま素っ気なく電話を切ってやろうか、と思った。
だが、彼は言いづらそうにしながらも「あの」と呟いて、沈黙を破っていく。
「麗子さん、黒い花に……身に覚えありませんか? 少し前から僕の元に……」
彼の口から「黒い花」と出たことに驚いた私は、思わず「え?」と声を出してしまった。
「……いや、すみません。……何でもないです」
彼は話を途中で切り上げて、電話を終わらせようとする。
終話ボタンに親指を乗せたまま、私はごくりとつばを飲む。
少し前から僕の元に、と彼は言った。
もしかすると、この花びらは彼の側にもあるのかもしれない。
そして、それを私に聞いてきたということは……。
彼は、あの恐ろしい姿を見たのかもしれない。



