だが、私は確信していた。
「身に起こる数々の可笑しな現象は、きっとこの花に呪われているからなのだろう」と。
しばらくの間、私はその場から動くことも出来ず、目を閉じて息を整えていた。
動揺している自分を落ち着かそうとしているのに、この身を包む黒百合の香りが嫌味なほどに漂ってくる。
こんな自分、誰にも知られたくはない。
だが、このままにしていても、状況は変わらないだろう。
そう思った私は意を決し、父に相談することにした。
「誰か来ているの?」
父の部屋へ向かう途中、お茶を運ぶ佐川さんとばったり出くわした。
黒百合の臭いを隠すために、普段はあまり使わない香水をふんだんにかけているせいか、彼女は少し顔をしかめていた。
「先ほど、桜田のお嬢様がいらっしゃいまして。贈り物の花をご主人様にたててもらいたいらしく……」
と、にっこりと微笑む佐川さん。
「桜田のお嬢様」というのは、以前、父が華を教えていた女の子。
そう、光の交際相手だ。
本当なのかはわからないが、「他の女性と一緒にいる光を見た」と父は言っていた。
ならば、今はもう光の彼女ではないのかもしれない。
「ご家族と一緒に?」