こんなことになるのなら、と何度も思った。
初めて出逢ったとき、異性として意識をしたとき、そして愛し始めたとき……。
もし、今、その瞬間へ戻ることが出来るのであれば、彼を愛さないように、私は自分に言い聞かせるだろう。
こんな苦しい思いを味わうことになるとは想像もしていなかった私に。

「悪いけど、そういう話なら自分の部屋へ戻ります」
父は出張先から戻るなり、久しぶりに顔を合わせた娘へ、突然、見合いの話を持ちかけてきた。
以前から何度かこういう話をされていた私は、くだらないと言わんばかりに席を立つ。
「まだ諦めてないのか」
父は残念そうな表情で、ため息をついた。
この六条家は明治から続く華道の家元で、生花と立華という2つの型を伝統とした流派を持つ。
父は私にこの家を継がせようとしているが、私は生け花よりもフラワーアレンジメントの資格を手に入れて、日本にはない技術を身につけた後、自立したいと考えている。
見合いの話をされるたび、その夢を反対する父とはよく喧嘩をしていた。
自分からこの話を持ち出さなくなった最近の私を見て、父はきっと「今なら見合いを引き受けるだろう」と思い込んでいたに違いない。