「……あの」
部屋の扉を少し開けて声をかけてきたのは、長年、この六条の家で勤めている家政婦の佐川さん。
我に返った私は悟られないよう、頬に流した涙を指先で拭いながら、そ知らぬ素振りで首を傾げる。
「ご主人様が、麗子さんを呼んでらっしゃいますが……。あの……」
乱雑に花を散らかした部屋の様子に、驚いているのだろう。
こんな風に崩れた私の姿を見ることは、1度もなかったはずだから。
何か言いたげな彼女は、目を泳がせながら口をもごもご動かして、言葉を詰まらせている。
「わかりました。これを片付けてから、父の元へ向かいます」
平然を装う私は、切り落とした花を集めながら、柔らかい物腰でそう答えた。
気まずそうな彼女は引きつった表情のまま、軽く頭を下げて扉をゆっくり閉めていく。
再び、部屋で1人になった私は、集めた花に目を向けた。
彼に出逢ってからの私は、自分が自分でなくなることが増えてきている。
彼が離れていかないよう綺麗でいたいと願うのに、逢えない日々が続くとよからぬ想像ばかり巡らしては、嫉妬に狂う有り様。
今までは自分の歳を恥じることなどなかったのに、年齢を気にするようになった私は、彼と釣り合わない自分に苛立ち、その度に深いため息をつく。