黒百合(書籍「恋みち」収録作品)

父や家政婦に見つかることのないように、私たちは1度、部屋へ戻った。
泣きじゃくる私の髪を何度も何度も撫でながら、彼は落ち着きを取り戻すまで帰らずにいてくれる。
少しだけでも本音を言えたことで、彼との関係が深くなったような気がした。
部屋を出る前も、彼は私を安心させようと、柔らかく口づけまでしてくれた。
「さっきまで2人の仲は険悪だったのに」と、にこやかに彼を見送る自分を可笑しく思った。
光の表情、言葉、態度、その1つ1つに、私の心は敏感なほどに揺れ動く。
不安定な恋愛だとわかっていても、光のそばにいる私は幸せを感じることができる。
年の差や、他の女性の存在を気にすることもあるけれど、私は彼と別れることは考えていない。
この時の私は抱きしめられたことで、彼の心はここにあるものだと信じきっていた。
言われたとおりに、来週になれば会えるものだと思い込んでいたのだ。
まさか、その日を境に会えなくなるなんて、これっぽっちも思っていなかった。

「どうした? 顔色が悪いようだが、大丈夫か?」
光とのことを思い出していた私を、心配そうに見つめる父。