だが、頬にある手を振り払おうとした瞬間、その手は強く握り返され、私は身動きが取れなくなった。
彼は掴んだ手を手前に引いたまま、畳の上にもう片方の手を置き、私の体を囲うような体勢を取ってくる。
後ろへ倒れそうになった私は、ひじをついて自分の体を支えた。
15センチほどの距離にある彼の顔には、いつもの無邪気さなど一かけらもなかった。
「百合ではないとおっしゃるのなら、僕はあなたがどんな花なのか知りたい」
ほのかに漂う、上品な香水の匂い。
真剣な表情や強引な囁きが、私の胸をギュッと締め付ける。
「……離れてください。人を呼びますよ」
流されてはいけないと思った私は、冷静な口調で返した。
だが、彼は怯むことなく、余裕の笑みを見せてくる。
「どうぞ、呼びたいのなら」
その言葉と共に、彼は私の唇を強引に奪う。
きっと、彼は全てを見通していたのだろう。
恋心を抱いていることも、掴まれた手を振り払えないことも、大声をあげて人を呼ぶことなどできないということも、何もかもわかっていたはず。
拒まなくなった私を見て、彼は1度、口付けを止めた。
そして、私の唇の濡れたところをそっと親指でなぞっていく。
再度、2つの唇は互いに求め合うようにして重なった。
この時から、私は自分の気持ちを受け入れてしまったのだ。