黒百合(書籍「恋みち」収録作品)

「純潔、無垢。そして、威厳。……私はそんな高貴な花ではありません」
手にしていた花を剣山の針に突き刺しながら、私は百合の花と重ねられたことで、改めて今の自分を情けなく感じていた。
恋人がいる若い青年に恋心を抱く私のどこが「純潔」なのか。
むしろ、「無垢」なんて言葉が似合うのは、私よりも彼のほうだ。
今の私に「威厳」なんてものは、これっぽっちもない。
頭では愚かな自分を恥じているのに、心の中で私は叶わぬ恋を悲しんでいる。
なぜ、こんなことになっているのだろう。
自覚していたよりもはるかに、私の中で彼は大きな存在になっていた。
「そうでしょうか。……僕は花言葉を聞いて、余計に麗子さんを百合のような人に感じましたよ」
うつむく私のそばへと、ゆっくり歩いてくる彼。
「僕はあなたのことを、今まで見てきた女性の中で、最も女性らしい方だなと思っています」
隣で腰を下ろす彼は、私の頬に手を添えて、優しくなぐさめるかのように囁いてくる。
「……大人をからかうのはよしてください」
彼の手から逃れようと、顔をそむける私。