準備を進めながら、彼はサラッとその台詞を口にした。
「……そう、ならよかった」
表向きの顔は穏やかな私。
だけど、内心は「やっぱり」とショックを受けていた。
私はなんて馬鹿なのだろう。
家柄だけではなく、彼は男としての魅力を十分に備えた青年だ。
澄んだ瞳に長いまつげ、ほんのりと筋肉がついた腕、まだ18の子供だというのに仕草や視線には色気まで感じるときがある。
学生なのだから、出会いもたくさんあるに違いない。
周りにいる女性は、きっと彼を放っておかないだろう。
聞かなければよかった。
考えればわかる話なのに、変な期待を持った自分が恥ずかしい。
口元が引きつっていた。
ちゃんと笑えていないことが、鏡を見なくてもわかってしまうほどに。
そのときだ。
「と言っても、不仲なので、彼女は僕のことに関心がないと思いますけど」
ぽつりと囁かれた言葉。
うつむいていた私は、目の前にいる彼をそっと見上げる。
目が合った瞬間、心臓が大きく波を打った。