「お願い、まだ言わないで?
俺と夏祭りデートしよう?」
そう言って差し出された孝太郎の手。
私はそれを、戸惑いながら握った。
孝太郎とのデートは楽しかった。
本来の目的を忘れるくらい、たくさん笑った。
「あれ、茜に似合いそう」
露店の前で足を止めた孝太郎。
蝶があしらわれたかんざしを手に取る。
「可愛い…」
私の浴衣の模様と同じ紫色。
「おじさん、これちょーだい」
孝太郎はかんざしの代金を払うと再び歩きだした。
私はおじさんからかんざしを受け取って後を追う。
「孝太郎、これ…」
「茜にあげる」
「え、そんな、悪いよ……」
私がそう言うと孝太郎が寂しそうな顔をした。
「最後くらい、プレゼントさせて」
小さな声だった。
最後……。
やっぱり孝太郎は気付いていたんだ…。

