沢城くんは笑っているのだが、どこか悲しそうに見えた
「昔から、何でも器用に人並み以上にできたもんですから、別に何かに頑張る必要とかまったくなかったんですよ」
それは初めて沢城くんが口に出した、沢城くん自身のことだった
沢城くんと付き合い始めてから結構な月日が経つが、わたしはやっぱりあまり彼のことがわからなかった
彼はあまり自分のことを話したがらない、二人で会話するときも話題はもっぱらわたしの周りに起きたこと
表面上はいつも笑顔で優しいのだが、彼が本質的にどういう人間なのかがまったく見えなかった
沢城くん自身がそれを隠しているということもあるが、わたしは少しだけそれが寂しかった
わたしに見せてくれている沢城くんが本当の沢城くんじゃないみたいで寂しかったのだ
だから、今日初めて沢城くんが自分のことを話してくれたのは不謹慎だと思うけど少しだけ嬉しい
「…沢城くんはさっきの試合、自分は頑張れていたと思う?」
「…わかりません。ただあの時はがむしゃらにボールを追いかけていたから。でも負けを確定付けるシュートを打たれた時、何か切ないような、腹立たしいような、いくつもの感情が胸を押し寄せてきて、ただそこに突っ立っていることしか出来ませんでした」
「…それって、沢城くんが頑張っていたからじゃないのかな?」
「えっ」
「沢城くんは頑張ったんだよ。だからあの時、負けたときに出てきたいくつもの感情はたぶん本当に悔しかったからなんだと思う」