【完】『いつか、きっと』

エマと翔一郎はこの日、織部寺の近所のケーキ屋までケーキを引き取りに向かう算段で、朝からいつもの黄色いリトルカブで翔一郎は大宮通を北へ上がった。

ケーキを引き取ったその足でいったん西陣まで戻り、普段着の翔一郎が取り出したのは、形見分けで受け継いだ、広蓋におさめられてある饗庭家累代の、丸に沢瀉(おもだか)の紋が打たれた麻裃である。

「礼服とりあえず持って、府庁まで来い」

と一誠に言われたのだが、何せ理由すら聞かされてないだけに、まるで事態が分からない。

(…しゃーないなぁ)

言われるまま翔一郎が府庁まで着くと、なぜかブラウンと愛、それとあさ美がいる。

「みんな、どないしたんや?」

三人はニヤニヤ笑うばかりで要領を得ない。

何とも得心がゆかないまま翔一郎は、

「これ着けて」

とあさ美に促されて目隠しをされ、裃は愛に委ね手を引かれて少し歩いた。

数分ばかりすると、

「目隠し外して」

とあさ美に目隠しを今度は剥ぎ取られた。

すると。

目の前にはレンガ造りの、古めかしい礼拝堂が聳えている。

「これって、平安女学院やないか」

何度か前の烏丸通を通っているので、教会がある…というのだけは翔一郎も知っていた。

「中にエマちゃんいるから、入ってみなって」

背の高い塔の脇に、門と扉がある。

開けた。

そこはステンドグラスと、木造の天井の高い礼拝堂になっていて、赤い絨毯が敷かれてあった。

さらに。

翔一郎は、目を見開いた。

「エマ…それ」

そこには。

胸元にV字のレースがあしらわれた、バッスルスタイルという後ろ腰を高く膨らませたウエストが細身の、いわゆる提灯袖をした真っ白い花嫁衣裳に、ベールを被ったエマがいたのである。

「これね、萌々子ちゃんが縫ってくれたんだ」

翔一郎が振り返った。

萌々子はピースサインで、してやったりという顔をしてみせた。

「…やりよったな」

このときほど騙されて嬉しかったことは、なかったに違いない。

「饗庭さん、礼服に着替えてください」

式が始まりますよ、とブラウンは言った。

「話はつけてあります」

どうも話し振りからクリスマスのミサの前に、式は執り行われるらしかった。