【完】『いつか、きっと』

翔一郎の脳出血の話題は、すぐさま愛や萌々子、あさ美の知るところとなった。

ショックは半端なものではない。

「翔さん、死んじゃうの?!」

ポンポン物を言うあさ美に至ってはそんな訊き方をした。

「殺すな」

間髪入れずに翔一郎は突っ込んだ。

「それだけ突っ込めたら、まだ大丈夫だね」

エマは笑ったが、翔一郎と二人きりになると、

「翔くん…」

あとは何も言わずに背中にエマは抱きついてきた。

内心。

不安で仕方なかったのであろう。

翔一郎は、無言で向き直ると、黙ったままエマを抱き締めるしか出来なかった。



翔一郎は療養することになった。

仕事はセーブである。

「何か…つまらへんなぁ」

そうは言うものの、翔一郎には久々の、長い休みでもあった。

嵐山の紅葉が賑々しくなった頃、エマは珍しく翔一郎を連れ出した。

「翔くんの好きな場所に連れてって」

というのである。

翔一郎は東福寺の三門から月ノ輪を左手に、稲荷の方へ少し歩くと、石段を登って光明院という小さな寺へとやってきた。

「穴場や」

確かに誰もいない。

「みんな東福寺行ってまうから、静かに過ごせる」

もちろんエマも知らなかったが、以前近くの勧進橋に住んでいた愛ですら、あとから訊いても分からなかったらしい。

方丈の庭は苔と白砂の上に真っ赤な楓が散り敷かれ、虹の寺と呼ばれる理由が少しだけエマには分かる気がした。

「ここはいつ来ても静かや」

春の若葉、初夏の皐月、秋の紅葉…とよく来る場所のようである。

廊下に無造作に座ると、

「今度は、ツツジの時期に来よう」

綺麗なんや、と言った。

「そのためには、ずっとそばにいてくれないとね」

エマは寄り添うように肩にもたれた。

「せやな」

柔らかい陽射しが、エマと翔一郎を照らしていた。