例えば、乗らないと遅刻になるバスが目の前を走り去って行った時。例えば、慌てて席に座ってから教室を間違えたことに気づいた時。例えば、授業後半から出席したら意味不明な記号が使われていて終わりまで寝どおしだった時。例えば、今日の授業はいっさいノートを取らなかったから来週の小テストの結果は破滅的だろうなと思った、けどノートを見せてくれる友達がいないので、まあいいや破滅で、と諦めた時。

「クズだなあ…」

そう思う。呟く。ツイッターに呟く。クズbotをリツイートする。自己嫌悪はそれで完了にしておく。どうせまたすぐに内省のチャンスはやってくる。根っからのダメ人間だし、おれ。

講義終わりの騒がしさが波を引いたように消えるのを待ってから、固定式の席を足で跳ね上げながら立つ。くすんだ灰色をした教室から出ると、学生3人が何事か笑いながら喋りながら廊下を歩いてきて今出た教室に入って行った。どうやらここで昼ご飯を食べるらしい。味気ない、むしろ窮屈に感じる教室で、わざわざ飯を食べる意味がわからない。今日は学食にしよう、と階段を駆け下りる。ひとりなら、空いてる席が並んでいる場所を探す必要もない。

ああ、特に何もしてないのに腹は減るもんだな。生きてるだけでエネルギー消費するんだもんな。偉い人もただの人もダメな人も人類皆平等、腹が減るんだ。ああ、でも、空腹を感じない病気があるんだっけ?いや満腹を感じない病気だっけ?前にドキュメンタリーで見たな…あ、腹がなった。スタミナ丼が食べたい。スタミナ丼頼もう…

昼休み特有の人混みの中、カサカサと風に流れて行くピンクの花びらを横目に目的地へ歩きながらとりとめのないことを頭の中でぐるぐる展開する。今の時期、大学構内のいたるところには桜が咲いていて、散った花びらが道端に溜まって茶色く変色している。ゆっくり歩いている集団を大きく回って追い越し、急に出てくる自転車をかわし、なるべく最短距離で目的地へ。曇り空、桜並木を早歩き。

友達は、できれば欲しい。まず第一にさっきみたいに板書しなきゃついていけないような授業が困っている。すぐにノートを見せてくれる優しい友達がいたらいい。第二に、授業に遅刻しても席をとっといてくれる気の利くやつがいると助かる。遅刻すると席は前の方しか空いてない。毎回座る時に視線を感じて恥ずかしい。それから、切実に困っているのは過去レポだ。今日から実験がはじまる。毎週のレポート提出に過去のレポートが無いと辛い。去年は4月の始めにデータを全て貰った。サークルの新歓時期に演劇部を見学したら入部希望だと思ったのか入部特典だとか言っておれのUSBに過去レポ過去問のデータを入れてくれたのだ。去年はそのデータだけを頼りに存分に活用させてもらった。しかし、演劇部の練習は週5でとてもハードそうだったので入部しなかった。ごめんなさい。結局どこのサークルにも所属しなかったから、部室の集まるサークル棟には近寄らない。あとは演劇部の公演に行かなければ、あのニコニコとUSBを渡してくれた女の先輩に会って気まずい思いをすることもないだろう。公演が見られないのはちょっと残念だけど。

そういうわけで、サークルというツテもないから、過去問過去レポを持った「友達」がいないと今年の学業生活がお先真っ暗だ。なんで1年の時に友達を作らなかったんだろう。いや、作れたら作るよ。とにかく、過去レポだけでいい。それが無かったら来週のレポート提出は地獄だ…