1日の仕事を終えて帰宅したのは、夜の10時。


営業先で、デパートの催し物担当者と意気投合し、次の営業をキメるために、自腹で飲みに行ったからだ。


明後日は、東京で初めての収録。


あたしも初めてなら、まーちゃ子も初めて。


どうなる事だろうか、こういう時は、敬介に聞くのが一番いい。


そう思って携帯を取り上げ、電話を掛けた。


「もしもし、志穂です」
『志穂! 明日こっち来るんだよね』
「うん、行くよ。でも正確に言うと、明後日の朝だけど」
『そっか、深夜バスだっけ』


ハギモトのドケチぶりは徹底していて、新人芸人が東京での仕事を行う際に、新幹線は使わせてもらえない。


そう、運賃が安い深夜の高速バス。


ランクアップして行けば、新幹線の自由席→指定席→グリーン車となるが……。


「帰りもそうなんだ、おまけに日帰りだから。会えないね」
『いいよ、来週の水曜日にはそっちに行くし。今度こそ、泊まるからね』


でもね、その日あたしは仕事の終わりが早いけど、女の子の日なんだよ。


毎週こちらに来てはくれるものの、色んな事情でまだプラトニックな関係。


「うん、ありがとう」
『浮かない声だね』
「あのさ、実は……」


理由を伝えると、敬介は大声で笑う。


『いいよ、気にしなくて。この間も言ったろ、結婚するまでデキなくたっていいって』
「でもこれって、付き合っているのに入らないかも」
『志穂、いいんだって』


欲が無いのが心配なんだよね、子供出来るんだろうか。