カユい、カユ過ぎる。


季節は冬、日曜の昼下がり。


裸足で花丸デパートの屋上ステージの裏に立つ。


足が早くも、しもやけでかゆくなって来た。


だが、そんな事に気を取られている場合じゃない。


「岸田さん、次回もウチのまーちゃ子を使って下さいー」
「まあ、盛り上がっとるし、考えとくわ」
「どうかお願いします、実は、まーちゃ子次の爆笑エスカレーターに出るんですよ。もし次回もお約束をいただけましたら、絶対に集客につながりますので」


デパートの担当者を口説き落とし、何とか次の約束をもらった所で、まーちゃ子が戻って来る。


「お疲れ様ー」
「大沢さん、おおきにー」


ようやく靴が履ける。


そう、あたしは今の今までまーちゃ子に靴を貸していたのだ。


ボケた芸風と同じく、普段からもボケまくっており、今日は営業だというのに、舞台用のヒールを忘れて来たから。


代わりにまーちゃ子の靴を借りようとしたが、デブ特有の幅広足が入るはずも無く、裸足でこの寒い中、1時間も立たされた。


「次からは気を付けてねー、まーちゃ子」
「はいはーい」


しもやけの足を引きずって、次なる営業先に向かう。


これが、笑いの総合商社ハギモト興行入社2年目の仕事だった。