あの日の笑顔が忘れられない。

あの日、あの場所で美穂は恋に落ちた。

少し幼稚な声、さらさらな髪、すっと通った鼻、見ているだけで心が埋め尽くされていく。

初めての横顔に出会ったのは中学一年生の秋の出来事だった。

「エロ本は何冊持ってる?」

休み時間の突然の出来事。

斜め席前の男子に話しかけられる。

「さ...三冊?」

よくわからないが、ノリで答えてみる。

そのときの教室の空気はなんとも言えない絶妙な空気。

「まじかよぉー!まだ中学生なのにどんだけもってんだよ!ったくー!」

「お前は10冊以上持ってるだろ!」「ば、ばれた?」と男子が爆笑を始めた。

全くついていけない会話。

そして突然の質問。

すぐにでもこの場から抜け出したいような気もしたが、なぜかうっとり見てしまうものがあった。

"石澤智哉"

さっきのエロ本野郎のことだ。

多分一目惚れなのだろうか、知らない間に意識するようになった。

この日話しかけてこなければ、この日出会わなければあんなことにならなかったのだろう。

「なぁなぁ!下ネタ連想ゲームしよーぜ!」

思春期である男子達の下らない連想ゲームが始まろうとしていた。

「おいおい、美穂と愛菜も混ざってやろーぜ!」

石澤が突然美穂をご指名してくれた。

こんなこともあるのだろうか、ただの人数あわせなのだろうか...

少し嬉しく表情は隠しきれない様子で美穂が石澤に近づく。

「おーし!始めるぞ!じゃあ俺からな!」

男子数人に女子一人。

なぜだろう、この感じ。

男子だけなのに気まずさが全くない。

連想ゲームが進んでいくと同時に美穂の感情が高ぶってしまい...

「石澤~上半身みせろや!ほれほれ筋肉みせろや!」

はっ...一瞬時が止まったかのように静かになったがすぐにうるささはもとに戻った。

「美穂やるねー!いいこと言うじゃねぇか!ほら!石澤も脱げ脱げ!」

「おいおい、なんだよ!少しだけだぜ!」

石澤も満更では無い様子。

ちらっとおへそを美穂に見せると美穂は石澤のお腹のするりとさわる。

「くすぐってぇーからやめろよ!」

けらけらわらいながらも服は自分の手であげっぱなし。

矛盾している。

美穂がさわったお腹は女の子が少し細いようなお腹だった。

筋肉は全然なく細身で丸くかわいいへそが見えていたのだ。

こんなエロい行動に美穂は耐えられそうになく、ほほを赤く染めていた。





完璧に高野に恋に落ちてしまった美穂は影で高野のことをチー君と呼ぶようにした。

特にきゅんとするようなことはされていないが、なぜか強く心がひかれていったのだった。