映画【シド & ナンシー】

イギリスのパンクロック・バンド
セックスピストルズのボーカル
シド・ビシャスと恋人ナンシー・スパンゲンの破滅的な恋を描いた作品





「スラム街でシドとナンシーが抱き合うの。すると、ふわあって、つむじ風が吹いて、そこらじゅうの紙切れがいっせいに舞い上がるの。
スローモーションに2人を取り巻いて。
まるで桜吹雪みたいに。とっても情熱的で素敵だった」


「…そうか」


「え、嫌だ、覚えてないの?」


「いや。ビデオ観たのは覚えてる」


「当たり前よ、ハルが観たいって借りてきたのよ。本当は私はもっと違う感じのが観たかったの。ラブストーリーみたいな」


沙織は俺の方に腕を伸ばし、白魚のような指で俺の右頬を突いた。
彼女の右肩には大輪の紅い薔薇のタトゥーが入っている。

それを初めて目にしたのは、ひと月前。

旧友でもある弁護士・平野に連れて行かれた高級クラブ【Vicious】のママとして現れたのが沙織だった。

20年ぶりの再会をしたその夜。
誘われるまま、迷い込むように沙織のマンションに俺は行った。

洗練されたインテリア。毛皮のストールがさらりと床に落ちて、鮮やかなタトゥーに度肝を抜かれた時、もう目の前の女はあの頃の沙織ではない、と思い知らされた。