3ヶ月前、横浜支店から異動してきた外商一課課長、奥永さん。

44歳。細身でクールなワイルド系。
刑事モノドラマなんかに出そうな危険な香りのする男。しかし、そんな外見に似合わず愛妻家だという話で安全パイだと思ってた。


なのに…彼の歓迎会で隣り合わせになり、気付いたら2人きりでバーにいた。
ジントニックとシックな調度の店の雰囲気に酔わされ、これまた気付いたら路地裏でディープキスしてた。


翌日、自室のベッドで二日酔いの頭を掻きむしった。

バカバカバカ、
不倫寸前じゃん…!

なんてことしてしまったんだ、私は!
友達の彼氏に手は出さないとか美学?語ってるくせに、妻子持ちは良いんかい?

ダメダメ30手前で不倫とか。離婚してよ、じゃなきゃ、あなた殺して私も死ぬわの泥沼コースだよ?ニュースになって、
ネットで個人情報晒されて、親兄弟まで悲惨な目に…

止めなきゃ、諦めなきゃ地獄行き!恋の引力は強力だけれど、今こそ理性を保たなきゃ〜!




「うえードン引きだぜ。ゲス不倫。お前もか?」

午後9時。都心にある高層ホテルの洒落たバーのカウンターで哲也は、ワサビ効き過ぎのお寿司を食べたみたいな顔をする。

「不倫じゃないって。ゲスとか言わないでくれる?一歩手前で踏み止まった私を褒めて欲しいんですけど」


私はジントニックをクッと飲み干す。空になったグラスをマスターに向かって小さく振ってみせた。

すぐに3杯目が私の前に置かれた。


「でも、キスしたんだろ?」

哲也が咎める目をする。

「40過ぎの妻子持ちと。自分に過失ないって思ってる?」


な、こいつ…私にそんな生意気なこと言っていいの?あんたが小学2年まで靴の左右分かんなかったこと、世間にバラすよ!

私の隣に座る紺のスーツ男、工藤哲也は幼馴染。同じ病院同時期に生まれた、赤ちゃんの頃からの付き合い。家も隣同士のご近所さんだった。でも、高校に上がるタイミングで、哲也の家族は父親の仕事の都合で山口県に引っ越ししてしまい、その後音信不通になった。