いとしいあなたに幸福を

「愛梨、あのさ」

「?」

――別の日の夜半、愛梨は布団の中で悠梨が呼ぶ声を聞いた。

集落が襲われた日以来、愛梨は悠梨に寝かし付けて貰わないとなかなか眠ることが出来なくなっていた。

当初は、小さな子供のようで少し恥ずかしかったのだが、悠梨が「俺も独りで眠るのが怖いんだ」と言ってくれてからは幾分気が楽になった。

「…愛梨は周のこと、好きか?」

そうして問われたのは、ごく最近美月に投げ掛けられたのと同じ言葉。

「な…っなんで急にそんなこと聞くの?」

動揺して少し声が上擦ってしまったが、悠梨は自分の問い掛けも唐突だったと自覚してか、余り気に留めていないようだった。

「うん…実はな、今日買い出しに行った店の若い女の子に言われたんだ。“周様のお傍で働けるなんてすっごい羨ましい~”って」

抑揚のない声色で喋るのに、女の子の台詞と思しき言葉だけ忠実に再現した兄に、ちょっと笑いそうになってしまった。

「俺には、まあ整ってる顔ではあるよなって程度しか解らないんだけど…異性の目から見たあいつって、結構かっこいいのか?」

斯(か)く言う悠梨も、美形と評されることが非常に多いのだが。

本人はそういうことに全く無頓着なせいか、他人の顔の造りの評価も良く解らないらしい。

「かっこいい、よ」

どちらかと言えば女性的な顔立ちの悠梨と、周とでは系統が違う。

周は母親似らしいが、少年らしい精悍な顔付きをしている。

本人も気にしていた背の高さも、最近は結構伸びてきている。